古典「次の御用日」たわいのない「アッ!」言った言わない繰り返し

大阪城

落語には季節感たっぷりの作品も多い。暑い夏の午後のやり切れなさが肌感覚で感じられるのが「次の御用日」だ。

これは船場の「とうやん」(=いとさん・お嬢さん)が借家人に街中で脅かされて、健忘症(記憶喪失症)になってしまうという、ストーリー的にはたわいのない噺だが、なかで、とうやんが東横堀あたりに来かかると、物売りの声がのーんびりと聞こえてくる。

「よーし(葭)や、すだれは要りまへんか」「ござや、寝ござー」

夏の物憂い昼下がりの風情がなんとも言えん雰囲気を醸し出す。

枇杷葉湯売り

 

「すいとう、ところてん」「京都烏丸本家(からすまるほんけ)、枇杷葉湯―(びわようとう)」。金魚売りが、「きんぎょーえ、きんぎょー」。私らは子どもの頃、昼寝しながら聞いたもの売りの声が、ひたすら懐かしい。

昼寝の夢を破るのが氷のかち割り屋。腰きりのハッピ一枚で、岡持ちをぶら下げて威勢よく「ウォーイ、かち割りや、割った割った割った」

噺の続き。とうやんの縫物屋行きのお供を仰せつかった丁稚の常吉。安綿橋の住友の浜に来かかると、向こうから大きな男。消防のまとい持ちの男で天王寺屋藤吉、下は褌一丁で上はハッピだけ。暑いのでハッピを両腕で頭の上へ持ち上げて日除けにしてやってきた。それを見て怖がるとうやんを、常吉は用水桶の陰に隠してやり過ごそうとする。

ところが、それを見た藤吉は、さらに怖がらせてやろうと、とうやんの頭の上へ覆いかぶさるようにして、「アッ!」と大声を上げる。途端にとうやん、うーんと気絶。そのまま健忘症に。

怒った父親が奉行所へ訴えた。裁きになったが藤吉は白を切る。奉行は激して藤吉に「アッ!と言ったであろう」と声を荒げる。藤吉は「アッ!と言わない」と拒む。あまりに「アッ!」と言った言わないと繰り返すので、奉行のどが痛くなり、「皆の者、次の御用日に致せ」。

参考記事:人情噺 期待の星だった桂福車 突然の死

たわいのない、「アッ!」と言った言わないの繰り返しが、馬鹿馬鹿しいおかしさを生む噺だ。噺の冒頭、丁稚の常吉は旦那にあれこれ小言を言われるが、何やかやと口答えする。そのこまっしゃくれたかわいらしさ、小憎らしさも楽しい。

こことの対比で、出くわした天王寺屋藤吉からとうやんを守ろうとする常吉の健気さが際立つ。それゆえ、後半の奉行と藤吉のやり取りの馬鹿馬鹿しさも生きてくる。で、中に挟まる夏のけだるい昼下がりの物売りの声。その風情が噺の抒情を生み出す。ストーリー展開の面白さを楽しむのも落語だが、中で描かれる季節感に、ほんのひと時身をゆだねる楽しみも、落語の醍醐味なのだ。(落語作家 さとう裕)

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