泥棒話の好きな日本とフランス 「お上」に対する小さな反乱に喝采

日本人は泥棒が大好き。いえ、落語や歌舞伎の話。

歌舞伎の泥棒はカッコイイ。実在の泥棒で有名なのが石川五右衛門。さらに鼠小僧に弁天小僧、稲葉小僧や田舎小僧なんてのもいた。歌舞伎では「盗みはすれど非道はせず」と見栄を切る。ホンマカイナなんて誰も言わない。「鼠小僧は泥棒でござる。盗られる奴はべら棒でござる」なんてダジャレも言うからカッワイイー!

三田村鳶魚(えんぎょ)によると、市中引き回しの際には、かなりの無理が言えた。ここで止まって辞世を詠むといえば許された。で、「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」。

江戸の左官亀五郎、10両盗んで打ち首に。その辞世「万年も齢(よわい)を保つ亀五郎たった十両で首がすっぽん」。とぼけた奴もいたもんで。鼠小僧は江戸市中を引き回されるとき、黒麻の帷子(かたびら)に更紗を重ね、八端の帯を締めて薄化粧までしていたという。

四代目市川小團治の鼠小僧 歌川豊国画

 

落語の泥棒は、まあだらしない。入った家の男はバクチに負けて一文無し。仕方ないので、有り金全部恵んで帰ったり(「うちがい盗人」)。かと思うと、玄関の敷居の下を掘って桟を外そうとして家人に見つかり、そのままそこで引っくくられ、明日になったら警察に突き出そうと一晩放置されたり。挙げ句、通りがかりの酔っ払いに財布を持ち逃げされるていたらく(「おごろもち盗人」)。 仏師屋に入ったのはええが、うっかり仏像の首を切り落としてしもたばっかりに、夜なべで修理を手伝わされるドジな泥棒まで(「仏師屋盗人」)。ちょっと知恵のある男が出てくるのが、「壺算」や「牛の丸薬(がんじ)」。詐欺まがいの手口で善人をだます噺やのに、なんか愉快でオモシロイ。

こんな噺が喜ばれた理由を桂米朝は、「だまされたほうの愚鈍さを笑うのか、そのだまし方があまりに巧妙なのに拍手するのか、だますためにはいろいろ心労や努力を伴う。それぐらいの報酬は当然だと思うのか……」といい、さらに民話とのつながりで、「大昔は、悪賢い狡い人間は、ある意味で尊敬されていたのではないか。時代とともに、古い昔がたりに教訓的なものが付加されてゆき、すべて勧善懲悪的なはなしになっていったのかと思われる」(『米朝落語全集』第7巻)と述べている。

桂米朝(上方落語家舞菅より)

 

泥棒話が好きなのは、日本とフランスだという指摘も(『盗みの文化誌』青弓社)。フランスにはルパンやファントマという大泥棒がいる。反対にイギリスやアメリカでは、シャーロック・ホームズに代表される名探偵が歓迎されるのやとか。確かに数年前までは、アメリカは世界の警察を自認してたけど、それも今や昔。

参考記事:人情噺 期待の星だった桂福車 突然の死

日本やフランスで泥棒話が好まれるのは、どちらも中央集権化が著しく、人民の管理統制が厳しかった。それだけに、反権力的気質が強いのだろうという。

いつの時代も民衆は時の権力者に不満や不平をくすぶらせている。民衆は自分たちの胸のわだかまりを代弁してくれる、「お上」に対する小さい反乱にはやんやの喝采をおくる(前掲書)と言うのだが、近頃はどうか。モリカケ桜の二枚舌政権の中枢にいた男が総理になったりもした。私ら嘘つきは泥棒の始まりと言われて育った。現実に比べ落語の泥棒が可愛く見える。これって幸せなんだろうか? (落語作家 さとう裕)

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