桂米朝作「一文笛」手口鮮やかな芸術品…スリ

夜の大阪城

泥棒の噺が続いて恐縮だが……、泥棒は手口が鮮やかなほど、人気が高まったとか。が、手口の鮮やかさといえばスリ。

マリリン・モンローが夫の大リーガー、ジョー・ディマジオと来日したのが1954(昭和29)年2月1日。滞在中にスリが腕を競い合った。優勝者は財布や時計をスリ取った男たちを尻目に、腰を振って歩くモンローのパンティをずりおろしてスリ取った男だという。ウソかホントか当時、そんな話が巷間をにぎわせた。

マリリン・モンロー

 

少し後になるが、昭和30年代テレビのバラエティ番組に世界一のスリが海外から招かれた。舞台に登場した男、司会の高橋圭三と握手した瞬間、高橋の腕時計をスリ取っていた。テレビの生放送で見ていたが、実に鮮やかだった。

スリのことを昔は大阪弁で「チボ」といった。「巾着切り」ともいった。どちらも今や死語。『上方語源辞典』(前田勇・著)では「チボッとした物を引っ張り取るから」チボというと。「チボッと」とは、ちょびっと、ほんの少しの意味だというが、いささか苦しい説明だ。『浪花文書』には「智謀歟(ちぼうか)」とあるが、こちらの方がまだ分かる。スリの智謀ぶりを落語にみると……。

良かれと思って貧乏長屋の子に一文笛を盗んでやったところ、その子は盗みの疑いをかけられ、親にこっぴどく叱られる。はかなんだ子は井戸へ身を投げた。話を聞いたくだんのスリ、俺が余計なことをしたばっかりにと、悔いて右手の指を2本切り落としてしまった。で、子どもは? 意識不明の重体。助けるには大金がいる。話を聞いたスリ、表へ走り出た。さて、オチやいかに?

この「一文笛」の作者、桂米朝はこの噺の前半部分は、浪曲や講談に出てくる伝説的名人「仕立て屋銀治」の逸話を借りたと述べている。前半はこうだ。

桂米朝(上方落語家名鑑より)

 

ある旦那、道で男に声をかけられ近くの茶店へ。男は自分はスリだと名乗り、旦那の腰の煙草入れを3円で買ったという。売った覚えはないと旦那。実はこうだと言う。煙草入れに目を付けたあるスリが、旦那の後を付け回したが隙がないので掏れん。で、別のスリが掏り取る権利を1円で買ったが、これも掏れない。また別のスリが2円出したが掏れん。そこで、わたいが3円で掏り取る権利を買うたが、旦さん隙がない。どうです、その煙草入れ10円で売ってくれまへんか。なに10円。そんな値で買うて、引き合いがあうのか? いやいやあいまへん、けど、大勢のスリが狙うて抜けんかった品をワシが抜いたと自慢したいだけと言葉巧みに旦那から10円で買い取る。旦那の方は、もう随分使った煙草入れが10円で売れた。それより大勢のスリが狙ったが掏り取れんかったと言われ鼻高々。10円という金が思わず手に入った、と懐を探ると財布がなかった。

参考記事:人情噺 期待の星だった桂福車 突然の死

これだけでもよく出来た噺だ。で、この話を自慢たらしくしゃべっていたのが、先の一文笛を子どもに与えたスリ。兄貴分に一文ぐらいの笛、何で買うてやらなんだ。あの子は井戸に飛び込んだんやでと教えられ、慌てて家を飛び出し、しばらくして大金を手に戻ってくる。お前、その金どうしたんや。へえ、そこで掏ってきました。なに? 利き指2本飛ばして、それでこんな仕事してきたんか、名人やなあ。「へえ。わたいぎっちょでんねん」(落語作家 さとう裕)

 

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