動物の鳴き声 今昔 狂言で犬は「ビヨビヨ」、鶏は「トッテコー」

落語にはいろんな動物が出てくる。で、イヌもネコも狼も猿も狸も人間の言葉をしゃべる。結果、鳴く動物は少数。小咄二題。

捕まえたネズミを前に、大きい、小さいと争っていると、当のネズミが「チュウ(中)」。

お百姓さんが1日の畑仕事を終えて帰りかけると、カラスがクワークワー。「ああ、もうちょっとで大事な鍬を忘れるとこやった」。鍬を担ぎ帰って来ると、庭のニワトリたちがクークークーと餌をついばんでいる。見たお百姓、「お前らは年がら年中食う食うと食い気ばっかりや。カラスは偉いぞ、ワシが忘れ物したらクワークワーと教えてくれたわ」。聞いたニワトリ「取ってこーか!」。

「取ってこーか」はコケコッコーの洒落だと思っていたが、山口仲美氏の『ちんちん千鳥のなく声は』(講談社学術文庫)を読むと、ニワトリは江戸時代「とってこう」と鳴いていたとある。単なるコケコッコーの洒落ではなかった。

山口仲美著『ちんちん千鳥のなく声は』(講談社学術文庫)

 

言葉をしゃべって鳴くのは「猫の忠信」ぐらいか。人間に化けていた猫が正体を暴かれて、手習いの師匠宅の三味線が自分の母親(の皮で作られた)と白状する。そのオチ。手習い師匠のお静さんが、美女の静御前になぞらえられると、「わてみたいなお多福、なんの静かに似合うかいな」と、猫が顔を上げて「ニアウ(似合う)」。

落語には犬の出てくる噺も多いが、面白いのは狂言の犬だ。「柿山伏」では、腹をすかせた山伏が柿の木に登って、柿を盗み食いしているところを柿主に見つかる。柿主は盗まれた腹いせに山伏をいたぶる。「柿を盗んで食べているのは猿かしらん、犬かしらん、トビかしらん」。言われた山伏、鳴きまねしてごまかす。「犬なら鳴こうぞよ」と言われ、「はあ、又こりゃ。鳴かざなるまい。ビヨビヨ」。狂言では犬はビヨビヨと鳴く。「二人大名」ではベウベウと鳴く(山口仲美『犬は「びよ」と鳴いていた』)。狂言は室町時代の芸能だ。

では、いつから犬はワンワンと鳴くようになったのか。山口氏は江戸の中頃にはワンワンと鳴いていたという。江戸の漢詩に「犬の咬み合い」(愚仏作)というのがある。

「鳥獣戯画」から

 

椀椀椀椀亦椀椀(ワンワンワンワンまたワンワン) 亦亦椀椀又椀椀(またまたワンワンまたワンワン) 夜暗何疋頓不分(夜暗くして何疋かトンと分からず) 始終只聞椀椀椀(始終ただ聞くワンワンワン)。妙な詩を作る坊さんがいたもんだ。

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さて、最初のニワトリ。山口氏によると、ニワトリは平安時代は「カケロ」とか「カッケロー」と鳴いていた。で、ニワトリも「カケ」と呼ばれていた。それがいつしか「庭つ鳥」からニワトリになった。狂言の「鶏婿(にわとりむこ)」にニワトリの鳴き声が出てくるが、鳴き声は流派によって違うとか。大蔵流は「コキャアロウクウ」、和泉流は「コックヮクォー」、鷺流は「トッテコー」。時代や流派によって鳴き方が違う。面白いもんだ。(落語作家 さとう裕)

 

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