「つる」という噺 「オスがツーと飛んできて…メスがルーと…」

落語には「根問いもの」と呼ばれる一群の噺がある。「根問い」とは、物事の根本に立ち戻って問い返すこと。古くは「根問い葉問い」という言葉もあり、これ「根掘り葉掘り」と同じ。

「つる」という噺。

物知りと評判の甚兵衛さん、喜六に鶴の名前の由来を聞かれて困った。「鶴は昔、首長鳥と言われてた」「ほな、首長鳥がなんで鶴になったんでっか」と問われ、「昔老人が浜辺に立っていたら、はるか唐土(もろこし)の方角から首長鳥のオスがツーと飛んできて松の木にポイッと止まった。後へさしてメスがルーと飛んできたのでツルや」と苦し紛れの答え。聞いた喜六、ええこと聞いたと他所で披露。「昔、老人が浜辺に立っていたら、はるか唐土の方角からオスがツーッと飛んできてルッと止まった。後からメスが……」「メスはどないしたんや」「黙って飛んできよったんや」

4代目桂米團治

この噺、元は「絵根問」という噺の後半部であったのを、先代の桂米團治が独立させたという。前半は屏風や掛け軸などの有名な絵柄「竹に虎」や「鯉の滝登り」等のうんちくを述べる。また、「色事根問」では、どうしたら異性にもてるのかを聞いた男、芸事が出来るともてる、お前は何か出来るかと聞かれ、「へえ、宇治のほうたる踊りなら」できると応えるが、実は友人の新築祝いで踊って大失態を演じていた。また、「商売根問」では、楽に金儲けする方法が述べられるのだが、当然落語だからみんな失敗譚ばかり。

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だが、これらの噺の中では様々なうんちくや世渡りの方法等、生活の知恵や知識が語られる。江戸時代の丁稚さんなどは落語を聞いて目上の人との接し方や、婚礼や葬儀の際の挨拶の仕方等を学んだと言う。そういう意味で根問いものは、それなりの知識や知恵の宝庫だったのだ。他にも「浮世根問」「歌根問(雑排)」「口合根問」「豆根問」等々数多くあるが、今や時世に合わず聞けないネタも多い。

昨今のコロナ禍で、我々は正しい知識の大切さを学んだ。一方で、正しい知識のひ弱さも思い知らされた。マスク不要論の人が現れたり、トランプ氏のまき散らしたフェイクニュース。根拠なく大統領選挙の不正を言い立て暴動まで引き起こした。その影響かどうか、ミャンマーでは選挙不正を理由にクーデターが起きた。

笑福亭伯鶴さんも「つる」を得意ネタとした

 

が、知識や知恵が増えるのは楽しい。テレビのクイズ番組も人気だ。これまで知識の量を競っていたのが、最近は脳トレ的な問題も増えた。知識だけでなくしっかり脳を使って考えようということで、認知症予防にもなる。昔からわれわれはなぞなぞも好きだ。多湖輝の『頭の体操』ブームもあった。江戸時代、創成期の噺家は噺以外になぞなぞもやっていた。神社の絵馬に数学の問題を出し、答えを競ったので日本の和算が発達したともいう。正しい知識は生きる力だ。そのことをしっかり認識し、コロナに立ち向かわなきゃ。(落語作家 さとう裕)

 

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