
今回の参議院選挙で自民党は単独で63議席を獲得し、改選議席125の過半数を確保して大勝した。与党は引き続き、参議院でも安定した基盤を確保することになった。今回、なぜ自民党が勝ったのか。関西学院大法学部の冨田宏冶教授と時事通信社解説委員の山田惠資さんに聞いた。(新聞うずみ火 矢野宏)
今回の自民党大勝の要因は何なのか。選挙最終盤で起きた安倍元首相への銃撃事件の影響はあったのか。
冨田さんは「ほとんど影響なかった」という。その理由について、「事件発生が投票の2日前だったこともあり、投票した人の多くがすでに投票行動を決めていたから」

「安倍元首相の銃撃死は参院選にほとんど影響はなかった」と話す冨田さん=7月14日、関西学院大
投票率も52・05%と伸びなかった。前回より3ポイントほど上がったとはいえ、戦後4番目の低さだ。それゆえ、冨田さんの持論である「保守3対革新2対無関心5」の法則を野党が破れなかったと分析する。
「衆院選と参院選の比例得票数を比較すると、立民は1149万票から677万票に落としている。衆院選で野党共闘に期待した人たちがあと一歩のところまで押し上げたのに、『失敗だった』との攻撃を真に受け、連合の芳野会長の共産嫌いもあって、今回ほとんど進まなかった。野党共闘に期待した人たちが失望した結果でしょう
時事通信社の山田さんも「自民の大勝というより、野党が統一候補を立てられなかった『敵失』だ」と指摘する。
前回の参院選は全国32ある全ての1人区で自民党と野党系候補の事実上の一騎打ちとなり、自民党の22勝10敗。今回は野党間の候補者調整が進まず、自民が28選挙区で勝利した。
「自民は野党共闘を恐れていました。それをつぶすための作戦が奏功したと言えるでしょう」
参院選勝利で安定的な政治基盤を手にしたはずの岸田政権。安倍元首相が凶弾に倒れたことで、どのような影響が考えられるのか。

安倍元首相の銃撃死を伝える7月9日付の全国各紙(矢野宏撮影)
「党内で財政再建派と積極財政派が対立しています。秋には50兆円規模の第2次補正予算を編成するよう求める意見や防衛費を増額すべきとの声もあります。積極財政派の中心だった安倍氏がいなくなり、束縛を脱したかに見える岸田さんですが、持論である財政再建を進めていけるのかは疑問ですね」
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もう一つ厄介なのが安倍派の存在だという。
党を代表する保守派として「岩盤支持層」を保持する党内最大派閥の動向だ。
「当面は集団指導体制でいくようですが、派内には『安倍系』と『反安倍系』の確執があります。これまでは安倍さんが派内からの不満や反発を押さえ込んでいましたが、軸を失ったことで土台が揺らぐ可能性があります。8月下旬には内閣改造・党人事がありますが、一つ間違えれば、対立を深めることにもなる。そういう意味で、岸田さんは『安倍派を抱えた』と言えるかもしれません」