
広島高裁は2月17日、愛媛県伊方町の四国電力伊方原発3号機の運転を差し止める仮処分を決定。山口県内の住民の申し立てを却下して運転を認めた山口地裁岩国支部の決定を取り消した。大阪府熊取町の京都大複合原子力科学研究所(旧・京都大原子炉実験所)で反原発を訴えてきた研究者グループ「熊取6人組」唯一の現職、今中哲二さんは「予想外だったが、それでも画期的な決定だ」と評価する。(新聞うずみ火 矢野宏)
伊方3号機は現在、定期検査で停止中。四電は4月からの運転再開を計画していたが、仮処分は即時効力が生じるため、山口地裁岩国支部で係争中の運転差し止め訴訟の判決が出るまで再稼働できない。
今中さんは、1973年に始まった日本初の原発裁判「伊方原発の設計許可取り消し訴訟」に先輩研究者5人とかかわり、専門知識を生かして原告の住民を支援し、法廷でも証言した。裁判では原発事故の危険性を立証したが、最高裁まで19年間争って敗訴が確定した。以来、「原発裁判に期待しない」として距離を置いてきた今中さんだが、今回の決定については「福島原発事故以降、時代の流れが少し変わったのかもしれない」と話す。
今回の決定について、ポイントは二つだと指摘する。
一つは、伊方原発の近くに活断層が存在するかどうか。 高裁は、中央構造線に関連する活断層が存在する可能性を否定できないと判断。「活断層は存在しない」と結論付けた四電の調査は不十分だと指摘し、それを認めた原子力規制委員会の安全審査についても「過誤か欠落があった」と批判した。
今中さんは「問題の活断層の存在は40年以上も前の伊方訴訟のなかで指摘されていた」と振り返る。「日本中いたるところに活断層があり、活断層を震源とした想定を超えた直下型地震が発生することも考えられます。そもそも地震大国のこの国に54基もの原発をつくったのが間違いであり、再稼働はすべきではない」

伊方原発=四国電力のHPより
二つ目は、火山の噴火の影響についての評価。高裁は、伊方原発から130キロ離れた阿蘇山(熊本県)で大規模噴火が起きた場合の火山灰の噴出量を、四電は少なく見積も過ぎていると指摘した。
今中さんは「原子力研究者として事故が起きたらどうなるのか」をもっぱら研究してきた。事故後のチェルノブイリを訪ね、「原発で大事故が起きると周辺の人々が家を追われ、村がなくなり、地域社会が丸ごと消滅する」ことを学んだ。しかも伊方原発は佐田岬の付け根にあり、事故が発生すれば約5000人が陸路での避難を断たれ、孤立する恐れがある。今中さんは「事故が起きたら周辺の30キロで人が住めなくなるものまで使って電気を作る必要があるのか」と訴える。
「電力会社にとって原発は資産。やめたら負債になるので、都合のいい見通しを立てて原発にしがみつこうとする。住民の安全を考えるなら原発はやめるべき。四電もここで立ち止まり、何が大事かもう一度考えるべきだ」