石垣島・陸自配備 住民自治をも押しつぶし

住民参画をうたい、「わがまちの憲法」とも称される「自治基本条例」。全国約400自治体が定めるこの条例が、昨年末、沖縄・石垣島(石垣市)で存亡の危機に立たされた。自民党を中心にした市議会与党が2019年12月議会で条例廃止を提案したからだ。かろうじて1票差で否決されたが、多くの市民は「陸自配備計画の賛否を問う住民投票つぶし」と見た。そのミサイル基地は昨年3月、市平得大俣に着工、造成工事が進む。(新聞うずみ火 栗原佳子)

 

「住民同意を得ないまま、上から一方的にミサイル基地建設が進められている。大きな社会情勢の変化があるいまだからこそ自治基本条例は必要なのではないか」

 

1月17日夜、石垣市の大浜公民館で開かれた集会「知って活かそうバガー(我)島の憲法『自治基本条例』」。実行委員長の川平成雄・元琉球大教授が口火を切った。昨年末、廃止の危機にさらされた市自治基本条例の意義を再確認する趣旨の集会で、約150人が参加した。

 

市自治基本条例は2009年、2年半の熟議を経て制定された。だが昨年3月、「条例に不備がある」として与党市議10人が特別調査委員会を設置。5時間の審議で廃止と結論付けた。まさに「廃止ありき」。背景にあるとされたのがミサイル基地問題だった。

 

防衛力強化の一環として防衛省が地対艦・地対空ミサイル部隊など600人の部隊配備を市に伝達したのは15年11月。反対の声が高まるが、中山義隆市長は18年7月、正式に受け入れを表明した。

 

■住民請求を否決

 

「安全保障は国の専権事項」だと市長。これに対し「島の未来は自分たちで決めよう」と、若者たちを中心に「住民投票を求める会」(金城龍太郎代表)が発足。「平得大俣への陸自配備の賛否を問う」住民投票実現のため署名運動を始めた。1カ月間で集めた署名は有権者の4割。地方自治法が必要とする「有権者の50分の1」の約20倍に達した。

 

住民投票実施を直接請求するも市議会で否決。だが、市自治基本条例は「有権者の4分の1以上の署名で市長に住民投票を請求することができ、市長は実施しなければならない」と規定している。求める会は昨年9月、住民投票の実施義務の履行を求め市を提訴、係争中だ。

 

集会では条例制定当時の副町長、黒島健さんも発言。「地方自治法上、有権者の50分の1以上の有効署名を集めれば住民投票の実施に必要な条例制定を首長に直接請求できる。だが、市検討会議では『4分の1以上』にしてハードルを高くした。民主主義社会は民意で成り立っている。住民投票は民意を反映するための制度だ」と強調した。

 

市バラビドー地区の垣花格さんは、地元住民の合意なく建設が決まった火葬場計画を、条例を根拠に撤回させた経験を紹介。「絶対条例は廃止しないで」と力説した。

 

昨年12月16日の定例会最終日に廃止案は採決された。賛成10、反対11。非自民の与党議員が反対に回り、全国初の条例廃止という異例の事態をぎりぎり免れた。

 

■アセス前に着工

 

集会翌日、平得大俣に向かった。農村風景と於茂登岳の雄大な山容が眼前に広がる。写真を撮ろうと車を降りると、山裾の緑が横一文字に切り裂かれ、赤茶けた山肌がのぞいているのがわかった。前夜の集会でこの近くで農業を営む知人と再会したが、「毎日、造成地が広がっていくのを見ながら農作業をしている。たまらない思いだ」と嘆息していた。

 

「ガラガラッ」という重機の音もする。造成の現場まで約3キロあるが、さえぎる建物もない。特に地中から掘り出される岩石を粉砕する音が激烈だという。周辺の住民らは防衛局に再三抗議しているが、改善されないままだ。

 

配備予定地は46ヘクタール。市有地と民有地が半々で、民有地の半分を占めるのが元ゴルフ場。防衛省は昨年3月、ここから工事に着手した。翌月に施行される沖縄県の改正環境影響評価条例の適用を逃れるための駆け込み着工。元ゴルフ場の持ち主は配備推進派市議で、条例廃止を画策した特別委員会委員長である。

 

予定地の周辺は島有数の農村地帯。開南、於茂登、嵩田、川原の4地区があり、沖縄、宮古、八重山の各島々、台湾などからの移民が開拓した。平得大俣への配備計画が降って沸いた当初から、一貫して反対の声を上げている。

 

■水源汚染の恐れ

 

しかし、防衛局が4地区と初めて面談したのは着工直前。農業用水はもちろん島全体の飲料水に影響する水源地汚染問題も何も解決されていない。中山市長も「4地区の声を聞いてから」配備の是非を表明するとしながら反故にした。やっと面談したのは昨年4月。住民たちは住民投票の早期実施を訴え自然・生活環境への影響や有事の際の住民避難など数々の疑問をぶつけた。しかし明確な答えはないまま。一方で市長側は4地区に再面談を再三要請している。「市有地売却について地元に説明したという既成事実を作りたいだけ」と住民側は警戒する。

 

予定地の半分を占める市有地の売却は議会の議決が必要。3月議会で売却議案が提案されるのはほぼ確実で、推進側、反対側いずれにとっても、ここが「天王山」と目される。

 

それだけではない。3月議会では、自治基本条例廃止案が修正されるなどして再提案される可能性もある。条例廃止の運動を指南したのは「日本会議」などに連なる団体。自民党も野党時代の11年に冊子を作成、「国家の否定が強くある」などと条例を強く批判してきた。集会に参加した住民の一人はこう警鐘を鳴らした。「住民投票つぶしの一点だけで見ると全体を見誤る。石垣だけの問題ではない」

関連記事

2022年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

ピックアップ記事

  1. 「こんな女に誰がした」の歌詞で知られる「星の流れに」。この歌が生まれたのは、旧満州(現・中国東北部)…
  2. 「歌は世につれ世は歌につれ」ということわざがある。歌は世の中の時勢や成り行きにつれて変化し、世の中の…
  3. 岸田政権が「安倍国葬」を強行しようとするのはなぜか。旧統一教会や日本会議、限られた資本家などが安倍元…
  4. 「国民に丁寧に説明する」と臨んだ今月8日の閉会中審査で、岸田首相はなぜ「安倍国葬」を実施するのか、四…
  5. 日本映画黄金期の松竹、日活、東宝、大映を渡り歩き、45年の短い生涯に51作品を残した異才・川島雄三(…

うずみ火商店




ページ上部へ戻る