福島市から自主避難の加藤さん母子 新型コロナ新たな試練

東日本大震災、その直後に発生した東京電力福島第一原発事故から9年がたった。震災から1カ月半後、子どもの被ばくを懸念し福島市から京都市に自主避難した加藤裕子さんは、働きながら一人娘を育ててきた。大学生になった娘は今年春から韓国留学を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の余波で、渡韓の道を絶たれた。「我が家にとっては二度目の災害」という試練の中で迎えた9年。加藤さんとともに振り返る。(新聞うずみ火編集部)

 

現在進行形のコロナ騒動は加藤さんにとって「3・11」の再来だ。

 

「情報も入り乱れて、どれが正確なのかがわからない。不安だけが募ります。デマが流れ、食料などがスーパーの店頭から消えたのも似ていますよね。マスクをかけて外出していましたし、『外に出てはいけない、屋内に留まるように』と言われ、子どもたちも外で遊べないのでストレスを抱えていて……」

 

加藤さんが重ね合わせる9年前。それは2011年3月11日午後2時46分、福島市の勤務先で震度6弱の大地震に遭遇したのが始まりだった。

昨年11月、韓国で現地メディアの取材を受ける加藤さん㊧=本人提供

 

震災から3日目、電気が復旧し、テレビをつけると、「原発の建屋が吹き飛んだ」というニュースが飛び込んできた。福島第一原発1号機の水素爆発だった。それまでの生活で原発を意識したことはない。自分が住んでいる場所が福島第一原発から60キロの距離にあることも初めて知った。

 

やっとつながりはじめたネットにかじりつき、福島県が1時間ごとに発表する放射線量のチェックも始めた。5日目の午後6時40分、福島市の放射線量は24・24マイクロシーベルトと表示された。通常の600倍という数値だった。

 

加藤さんは、結婚生活を送ったドイツから4年前に帰郷。娘と2人暮らしだった。放射線量を気にしながらも、給水車に並び、食料や燃料を調達するために営業中の店を何軒も探してまわらなければならなかった。当時、娘は小学4年生。2キロ先の学校まで毎日徒歩で登校していた。通学路脇では耕運機が田んぼの土を起こし、市役所庁舎解体作業現場の粉塵が舞っていた。

 

「まもなく私は夕方になると腹痛を伴わない下痢をするようになったんです。手足に青あざが出て、娘も大量の鼻血を出すようになりました」

 

寝る間を惜しみ、放射線が及ぼす健康被害についての情報を集めた。専門家の間でも「安全」「危険」の両方の見解があること、子どもは放射線に対する感受性が高いことなどを知った。米国防省が軍関係者に80キロ圏内から退避するよう命じていたことも。

 

自分の住んでいる場所は安全なのか。加藤さんは地元大学の教員らも多く登録するメーリングリストにも疑問を投げかけた。すると、面識のない一人の教員から直接メールが返ってきた。安全を強調する風潮が強いため、全員が閲覧できるメーリングリストを避けたとし、あくまで自分で判断するようにと、いくつものリンク先が貼られてあった。

 

「放射能と健康被害の間に『しきい値』はないというのが世界の共通認識だと知りました。それで、避難を決意しました」

 

■公的支援打ち切り

 

福島第一原発事故後、国は放射線量が年間20ミリシーベルト超の地域を「避難指示区域」とし、住民を強制的に避難させた。加藤さんたち「区域外」から避難した人たちは「自主避難」と呼ばれてきた。 区域内ならば年齢にかかわらず1人850万円から1450万円の慰謝料のほか、失った宅地や建物などの賠償も支払われたが、自主避難者に対しては、わずかな賠償金と、災害救助法に基づく期間限定の住宅無償=みなし仮設提供だけだった。

「9年間、あっという間でした」と振り返る加藤さん=京都市内

 

加藤さんが入居したのは大阪府高槻市の公営住宅。その後、自主避難者が身を寄せる京都市伏見区の国家公務員住宅へ移った。多い時で100世帯超。福島だけでなく、岩手や宮城、茨城、栃木など様々な出身地の避難者をつなぐ自治会活動にも加わった。

 

15年の秋だった。例年ならあるはずの「避難者住宅延長」通知が届かない。加藤さんらは首都圏の避難者や支援者と何度も福島県庁や国会に出向き、要請した。が、県は17年3月末で自主避難者への住宅無償提供の措置を打ち切った。

 

京都市・府は福島県が無償提供の措置を打ち切ったのちも避難者への住宅提供を継続したが、それも震災8年となる昨年3月末で終了した。加藤さんは同じ伏見区に居を移したが、生活が立ち行かない家族を何組も見送った。

 

加藤さんは避難仲間と脱原発のプロジェクトを立ち上げるなど、手探りで活動を続けてきた。自主避難者への支援をうたった「原発事故子ども・被災者支援法」成立に一筋の光を見て、公聴会などを主催したこともあった。自主避難者による原発賠償訴訟の原告にも加わった。一連の訴訟は東電と国を相手に各地の地裁に提訴されており、これまで8地裁で判決、うち6件で勝訴している。加藤さんらは大阪地裁で係争中だ。

 

2019年は韓国で、現地の友人たちを介し韓国国会の院内集会で発言。新聞の取材を受け、ラジオ番組にも出演する機会を得た。今年3月には広島で、娘と同世代のドイツの若者たちに実情を語ったばかりだ。

 

以前は社会問題に関心はなく、選挙にも行かなかった。「1票を入れても変わらないと。でも、被害者になって知らないことは怖いと思うようになったのです。関西に来た時、こう言われました。『役所は黙っていても何もしてくれない。してほしかったら言わんと』。嫌だったり、困っていたら、自分で言うしかないと気づかせてもらいました」

 

■娘の韓国留学延期

 

9年前、加藤さんがこたえたのは実は娘の抵抗だった。自身も出演する吹奏楽コンクールが目前に迫っており、「転校したくない、友達と別れたくない」と泣いた。その彼女も今年20歳になる。自らも原発関連の集まりなどで発言するようになった。今春からは、大学の交換留学生として学生生活を送る予定だった。そこにコロナが直撃した。

 

2月下旬、韓国側の受け入れ期日が1週間延期となり、3月に入ってさらに1週間。ついには無期限の延期になった。安倍政権が韓国からの入国制限を強化したことで韓国政府もビザ免除を中断、発行済みのビザの効力も停止した。

 

「なんでいつもこうなの。原発事故だけでなくて、なんでコロナまで私の人生に関わるの……」と泣く娘を、加藤さんは慰めるしかなかった。

 

母子はともにKーPOPファン。音楽から韓流ドラマ、韓国そのものへと関心を広げた。娘は高校時代から韓国語を学び、高3の時に「日韓青年親善交流のつどい」で初めて渡韓、同世代と触れ合い、留学の夢を思い描くようになった。

 

「昨年夏に申請して大学や旅行会社、銀行、領事館などに何度も通い、手続きを一つひとつこなしてようやく希望がかなう寸前でした。手続きが大変だっただけに、私も膝から崩れ落ちそうでした」

 

指定の旅行社を介したチケットは約9万円もしたが、返還されない。その負担も非正規の母が担う家計にのしかかる。その後、留学は後期に延期された。避難を選んだ経験からも、コロナからの自衛の必要性はわかる。それでもーー。

 

■避難の軌跡つづる

 

加藤さんは19年7月、避難の軌跡とその時々の気持ちをつづった本を出版した。タイトルは「WHY?」。疑問符の連続だった歳月の記録だ。

加藤さんが出版した「WHY?」

19年2月、母子避難を福島から支えてくれた父が心不全で亡くなった。帰郷すると、住まいのあった場所は事故前の5倍の0・20マイクロシーベルト。周辺には汚染土を詰めたフレコンバッグが山積みになっていた。

 

原発事故で今も苦しんでいる人がいることを忘れないでほしい、娘と同じ若い世代に知ってもらいたいと、出版を決めた。

 

B5版90ページ。見開きの左ページに1~4行の短い文章をつづり、避難者への支援活動で知り合った海外の友人の協力で英語と韓国語も併記した。右ページは加藤さんが撮りためた写真を大きく載せた。

 

「社会問題を扱った本というと敬遠されがちですから、言葉を削り大事な言葉だけを残していきました。見た人に想像してほしいと、写真説明もつけませんでした」

 

装丁も写真もモノクロ。本全体が黒いのは「ドイツから福島、福島から京都へ避難した後も気持ちはダークだから。9年経っても原発事故は終わっていません。被ばくから逃れ、避難する権利、普通の暮らしを求める闘いはこれからも続きます。原発問題などの困難なことから解放された時、初めてカラーになるのだと思います」

 

「WHY?」(1320円)はアマゾンで購入できる。検索は「WHY?KATRIN」。

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