新型コロナが病院直撃 医療崩壊招く経営危機

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関の経営が悪化している。大阪府堺市の社会医療法人「同仁会」理事長で、耳原鳳クリニック所長の田端志郎さん(56)は「このままでは、第2波が来る前に経営破綻による医療崩壊が起きる」と危機感を募らせている。今回のコロナ禍で、私たちの命と健康を守るはずの医療体制の脆弱さが垣間見えてきた。 (新聞うずみ火 矢野宏)

 

同仁会は、耳原総合病院や耳原鳳クリニックなど七つの医療機関、耳原訪問看護ステーションなど三つの訪問看護のほか、訪問介護やケアプランセンター、泉州看護専門学校などを運営しており、地域の医療や介護、福祉を支えている。事業収益は約150億円で、医師や看護師、ケアマネジャーなど約1800人が勤めている。

 

田端所長は4月に理事長に就任したばかり。「4月だけで7300万円、5月は5200万円の赤字です。5年前に新病院にした耳原総合病院の借金も残っており、非常に厳しいのが実情です。このままだと経営的に成り立たなくなります」と頭を抱えている。

 

当面の対策として、医療機器を買い替えるための投資(約3億8000万円)を凍結したほか、5%の経費削減、独立行政法人「福祉医療機構」から無担保・無利子での3億円の融資などを進めている。

耳原鳳クリニック=堺市

 

「経営努力だけではどうしようもありません。しかも医療の世界は日進月歩。絶えず医療機器を新しいものに買い換える必要があります。投資の凍結は苦渋の決断です」

 

経営が悪化している医療法人は同仁会だけではない。

 

全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)がまとめた「医療経営破綻の危機」によると、「現状のまま、有効な財政支援などがなければどうなるか」について、133法人の81%にあたる108法人が「資金不足に陥る」と回答。そのうち5割近くが今年度の上半期である9月末までしか持たないと訴えている。全日本民医連では「医療介護の経営は、手持ち資金の流出で資金がショートするか、返済見通しのない借金で将来の展望を失うかの厳しい状況に直面している」と結論づけ、政府に財政支援を求めている。

 

医療機関に診療報酬が入るのは申請から2カ月後。患者の落ち込みが激しくなった4月の影響は6月から出てくる。資金繰りが厳しくなれば廃業も起きかねない。

 

■患者減 出費は増

 

経営危機を招いた主な要因を、田端理事長は三つ上げる。

 

まずは「感染リスクを恐れて受診を控える人が多かったこと」。3月後半から患者が減り始め、全体で前年と同じ月と比べて10~15%の患者が減っているが、特に小児科では50%も患者を減らしているという。

 

同仁会では、社会福祉法に基づく「無料低額診療制度」を実施している。経済的理由により適切な医療を受けることができない住民に対し、無料または低額で診療を行う事業だ。昨年4月の新規申請者は9人だったが、この4月では18人と倍増している。

 

耳原鳳クリニックの緒方浩美医師はこう説明する。

病院経営の厳しい実情を語る田端理事長㊧と緒方医師

 

「コロナ不況で解雇された患者さんが『健康保険料も払えず、次回の外来受診には来られないかもしれない』と言ってました。不安定就労、非正規労働者の方が多く、特に50代、60代の男性が多いですね。手取りが5分の1になったタクシー運転手さん、商売をされている患者さんも『確定申告せずに商売していたので、持続化給付金の申請もできない』と話していました。社会のしんどいところにいる人が病気になって働けない人もいます。無料低額診療制度のことを説明するのですが、明日の生計をどうしようかという人が自分の診察どころではないのかもしれません」

 

二つ目は「不要不急の検査や手術を控えたこと」。各学会からも感染防止の目的で控えるよう指示があったというが、これも経営悪化に拍車をかけたという。

 

三つ目が「コロナ対応で収益が減ったこと」。耳原総合病院はコロナ専門病院ではないが、接触者外来を設けていた。感染が疑われる患者は保健所の「帰国者・接触者相談センター」に連絡しなければならないが、なかなかつながらない。受け入れ病院に診察を依頼しても予約が取りにくいケースも頻発。大阪市や八尾市、東大阪市などで診療を拒否された「発熱難民」がたびたび救急車で搬送されてきた。耳原総合病院は「受け入れを断らない病院」と知られており、多いときは1日15~20人を受け入れてきた。

 

PCR検査の結果が出るまで、あるいは陰性でもコロナ疑似症として感染予防を行いながら治療を行うために、小児科病棟をコロナ専門病棟とした。院内感染を起こさないために、一般患者と接触しないようにしなければならない。病棟を「レッドゾーン」と「クリーンゾーン」に分け、医師や看護師は防護服を着て対応した。

 

感染予防に必要な経費は、ほとんどが病院側の持ち出しだった。田端理事長は「コロナかどうかわからない疑似症者を受け入れるだけでも経営的、精神的に大変でした」と振り返る。

 

「1病棟30床のところに30人を受け入れることはできません。感染予防のため個室に準じた管理が必要ですから、半分の15人受け入れたとしても、あとの15床は『遊び病床』となります。1日入院すると、病院側が得られる診療報酬は、当院では約6万5000円ですから15床分の診療報酬がなくなることになります。それに、コロナに感染している可能性もあるわけですから院内感染を防がなければならない。普段は救急医療を行っている医師に担当してもらい、感染防止の知識を持つベテラン看護師を配置しなければならず、医療スタッフの数や手間が通常の数倍必要でした」

 

しかも、発熱患者を受け入れたことで、「あの病院はコロナが出たらしい」など風評被害もあった。

 

田端理事長は「このままだとコロナ患者はもちろん、発熱患者すら『受け入れない方がいい』と考える病院関係者が増えるでしょう」と指摘する。

 

「発熱外来を受け入れて院内感染になったら、その病院は浮上できなくなるほどのダメージを受けます。外来も救急もすべてストップし、2週間から1カ月は病院機能が停止してしまうのですから。特に民間病院は厳しいです」

 

■第2波対応に懸念

 

政府は、コロナの重症患者の入院治療を行った病院などを対象に、診療報酬を通常の3倍(最大約43万円)に引き上げた。6月12日に成立した第2次補正予算では1床あたり1日最大約30万円の「空床補償」を設けたが、いずれも対象はコロナ専用病棟。同仁会では現在、雇用調整助成金の申請を準備しているというが、これとて経営悪化に歯止めをかけるものではない。

 

新型コロナの感染拡大の前から医療機関を取り巻く環境は厳しかった。診療報酬の抑制と人口減少で、経営は悪化の一途をたどっていた。

田端理事長

 

帝国データバンクによると、昨年1年間に倒産した医療機関は45件と、2010年以降で最多となった。

 

収益を出さなければ職員の給与を上げられず、設備投資もできず、患者への対応がおざなりとなり、経営はますます苦しくなるという悪循環に陥るケースも少なくない。

 

私たち患者は健康保険により、3割負担で医療を受けることができ、残る7割は健康保険組合などを経由して国が支払う。これが診療報酬だが、国は膨れ上がる社会保障費を抑制しており、医療や介護業界では収益減が続いてきた。

 

田端理事長は「医療に対する補助もなく、このままの経営状態が続けばコロナの第2波に対応するのは難しくなるでしょう」と指摘し、こうも言い添える。

 

「2カ月で1億円を超える赤字となり気が遠くなりそうですが、こんなことで地域の財産をつぶしてなるものかと、頑張ります」

 

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