「大阪都構想」再び住民投票 弱小都市を選ぶのか

大阪市を廃止し四つの特別区に再編する、いわゆる「大阪都構想」の制度案が大阪府・市の両議会で可決された。大阪市選挙管理委員会は住民投票の日程を10月12日告示、11月1日投開票と決定。僅差で反対が上回った5年前に続いて2度目の住民投票が行われることになった。18歳以上、日本国籍を有する大阪市民の手に政令指定都市・大阪市の運命は託された。1票でも賛成が上回れば大阪市は2025年1月、4特別区に分割され、消滅する。  (新聞うずみ火 矢野宏)

 

「賛成57票、反対25票、よって本案は可決しました」

 

9月3日、大阪市議会。定数の3分の2を占める大阪維新の会と、公明党の議員たちの拍手が議場に響いた。二度、三度と大きく頷く松井一郎市長。大阪市民による2度目の住民投票の実施が、事実上決まった瞬間だった。

 

「コロナ対策を無視する都構想、絶対反対」「民意を聞け」。傍聴席から抗議の声を上げた男性が議長から退場を命じられた。コロナ感染防止を理由に、この日、114ある傍聴席のうち開放されたのはわずか18席だった。

 

大阪のコロナ感染の陽性率は国内でも高く重症者も増えている。住民投票よりもコロナ対策を優先すべきではないのか。閉会後の記者会見で松井市長は、「コロナの状況を見ながら判断しますが、今のような状況なら11月1日に向けて準備します」と言い切った。判断の根拠を尋ねられると、「いま大阪で医療崩壊するという状況ではないということ。だから実施できると判断しました」

 

さらに松井市長は「民主主義の根幹である選挙」と強調、住民投票実施に意欲をにじませた。

大阪市議会で「都構想」の協定書が可決され、記者会見に臨む松井市長

 

しかし、任期が定まっている選挙と住民投票は違う。それでも今なのか、重ねて質問が飛ぶと「この10年間、都構想について葛藤してきた。僕の任期も半ば。任期内に選挙公約を実現するというのは政治家として当たり前のこと。反対派は『今でなくていいではないか』と言いますが、彼らはいつだって反対なわけでしょう。今でなければいつなのか。コロナが落ち着いてからというが、誰がその日を確証できるのですか」と語気を強めた。

 

そこで持ち出したのが5年前、15年5月17日の住民投票。「反対派陣営にさまざまなデマを流され、彼らが出してきた対案もその場しのぎのものだった。だから、2度目の挑戦をしている。われわれはデマを飛ばしたこともないし、嘘もついていないつもりです。今回も正々堂々と事実に基づいて協定書の中身について市民に説明したい」と述べた。

 

「デマ」とは何を指すのか。具体的な説明はなかった。

 

■「財布」握るのは府

 

「大阪都構想」というと、「都」になるかのように映るが、実際は「政令市の大阪市を解体し、特別区に4分割する」だけのものである。法律上、都にはならない。

 

大阪市の中に合区が四つできるのではなく、政令指定都市である大阪市が消滅、特別区という弱小自治体が四つできることになる。基礎自治体の市としての権限も失われる。しかも、もう一度市に戻りたいといっても戻れない。

 

特別区は「淀川区」「北区」「中央区」「天王寺区」の四つに区分けされた。大阪市の現在の人口は約270万人。4分割すると、特別区の人口は約60万人~75万人になる。人口規模では中核市並みだが、権限と財源を府にむしりとられた弱小自治体だ。全国20ある政令市のうちトップクラスの財政状況にあるにもかかわらず、権限の小さな特別区に成り下がる。

 

ちなみに5年前は5分割する案だった。会見で松井市長は「五つの特別区から四つの特別区にしたことで地域間格差は是正された。5年前よりバージョンアップしたと思う」と胸を張っていたが……。

 

■変質した「都構想」

 

そもそも「大阪都構想」は、大阪維新の会の「一丁目一番地」といわれる政策だ。

 

しかし、もともと維新の会が打ち出した「大阪都構想」は大阪市を八つ、堺市を三つの特別区に分割、さらに周辺の松原、八尾、東大阪、大東、門真、守口、摂津、吹田、豊中という周辺の市をすべて含め「大阪都」にするものだった。しかし13年の堺市長選で維新候補が敗れ、堺市が「都構想」ノーを突き付ける。この時点で「都構想」は「大阪市を解体する」だけの全く別のものになった。

 

15年5月の住民投票。橋下氏は「大阪市が変わるラストチャンス」と崖っぷちのイメージを振りまいた。反対70万5585票、賛成69万4844票。投票率66・83%。敗れた橋下氏は大阪市長を任期満了まで務め引退した。

 

同年11月の大阪市長選・市長選のダブル選挙では松井氏が知事に再選、橋下氏の後任として擁立した当時衆院議員(比例近畿)だった吉村洋文氏が市長に初当選した。橋下氏はこの選挙戦で「都構想へのリベンジ」を口にした。

 

それでも、府・市議会とも維新が過半数に届かないため、協定書を作成する法定協議会の審議は進まなかった。昨年4月、松井氏が知事から市長に、吉村氏が市長から知事に、というダブルクロス選を仕掛け勝利。府議選でも維新が単独過半数、市議選でも過半数に迫る40議席を獲得、維新人気を見せつけた。これによって住民投票実施に消極的だった公明党が賛成に転じ、市議会でも賛成派が過半数を確保、2度目の住民投票が現実味を増した。

 

■ずさんな税収見通し

 

住民投票実施決定を受け、共同通信社が9月4~6日に実施した世論調査では「都構想」に賛成が49%で、反対の39%に10ポイント近く差をつけた。その原動力となっているのが吉村知事のテレビ出演とされる。一方、同じ世論調査では7割を超える市民が「説明が不十分だ」と答えた。

大阪市が廃止されれば現在の市役所は北区役所になる

 

例えば、新型コロナの影響について。9月9日付の日本経済新聞は「大阪市の2021年度の税収が、20年度当初予算比約500億円減の約6900億円となる見通しであることが市関係者への取材でわかった」と報じた。新型コロナ感染拡大の影響で法人市民税などが減り、リーマンショック直後の09年度と同程度の減少幅になる見通しだと伝えた。「都構想」をめぐり、府・市が制度移行後の15年間の特別区の財政シミュレーションを発表しているが、そこには税収減は盛り込まれていない。

 

大阪市が廃止され特別区に分割されると、市の独自財源の65%は府に吸い上げられ、府からの交付金頼みになる。特別区への移行にかかる当初のコストは、システム改修費に182億円、庁舎の整備費46億円、街の案内表示を変更する費用などに13億円と、少なく見積もっても241億円。敬老パスや塾代助成、子ども医療費助成などの独自の住民サービスは維持されるのか。

 

一方、市の住民説明会は9月26、27日、10月3、4日の午前午後、計8回に限定。各会場の定員も300~500人に絞る。新型コロナ対応だとしているが、当時の橋下市長が出席して39回行われた5年前に比べるとあまりに少ない。区役所などで中継映像を配信したり、別途オンラインによる説明会も設けるというが、市を廃止するという選択の重さとの落差は大きい。

 

なお、説明会には松井市長だけでなく、吉村知事も出席するという。

 

ちなみに9月10日、大阪市の施設の会議室を予約した。使用目的に「大阪市が廃止されることについての勉強会」と記したところ、担当者から電話が入った。「住民投票において投票運動を行う演説などは禁止されています」。確認電話があったのは初めてのこと。

 

市に問い合わせると、13年2月に制定された「大都市地域における特別区の設置に関する法律施行令」で、市選挙管理委員会から地方公共団体の施設での投票運動は禁止との通知があったという。住民投票の公示前だが、市議会での協定書承認を受け、通知は4日付。職員は「勉強会なら大丈夫です」と言いながら、こう告げた「借りる時には誓約書を書いてもらいます」

 

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