「つるつる」「だくだく」「ぞろぞろ」…これって、落語のタイトル?

落語の演目には、これ何?と首をひねるものも少なくない。「つるつる」「だくだく」「ぞろぞろ」…もともとネタ帳に記した符丁みたいなもの。昔はかなりええ加減やったんですなあ。(新聞うずみ火編集部)

演劇や小説の場合、タイトルは描かれる内容(テーマ)と密接な関係にあるが、落語の場合はあまり関係ない。というか、ほぼ関係ない。

落語のタイトルは幕内の心覚えから始まった。寄席には「ネ[タ帳」というものがあり、その日、誰がどんなネタを演じたのか記してある。それは、同じネタや類似の噺が繰り返されないようにとの、幕内の心配りなのだ。それゆえ、どんな噺か分かればいいので、仲間内の符丁のように記されていて、それがいつの間にか落語のタイトルとして扱われるようになったわけ。たとえば「つるつる」とか、「だくだく」「ぞろぞろ」なんて聞いても、どんな内容か想像すらできない。

「つるつる」は主人公が吊るした帯を伝って、つるつると降りてくるのがサゲへの導入だし、「だくだく」は泥棒が家人に見つかり、槍でわき腹を突かれて「血がだくだくと出た(つもり)」。「ぞろぞろ」はひげがぞろぞろと生えたのがオチ。要するにこれらは、オチの語句の一部がタイトルになった例だ。

天満天神繁昌亭

 

「きゃいのう」なんて噺もある。歌舞伎の下積みの役者に役がついたが、セリフは「割りゼリフ」(一つのセンテンスを何人かで分けて言う)で、乞食に向かって、前の役者が「とっとと外へ行(ゆ)」、それを受けて別の役者が「きゃいのう」。

ま、タイトルは? でも、噺の中身はみんな落語チック。「だくだく」は設定からして奇想天外。貧乏な八五郎、絵描きに頼んで家の壁にタンスや長火鉢など家具調度を描いてもらう。新米の泥棒が忍び込み、タンスを開けようとしたがだめ。しかし、こいつが粋な奴で、「タンスを開けたつもり、中から風呂敷を出して広げたつもり……」とやりだしたので、八五郎も「槍を手に取って、わき腹をエイッ!……」「血がだくだくと出たつもり」。上方では「書き割り盗人」という。

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「ぞろぞろ」も、信心深い茶店のおやじ、商売繁盛を神頼み。と、売れ残っていた草鞋が売れた。みんな売れてなくなったら、天井から吊ってあった紐に草鞋がぞろぞろと出てきた。それを見た向かいの床屋の親方、すぐに神信心へ。帰ってくると店の前に客の行列。「ありがてえ!」、一人目の客のひげを剃ると、すぐにひげがぞろぞろ。ね。これぞ落語! だ。

「つるつる」はちょっと身につまされる。幇間の一八が芸者のお梅に恋をして言い寄るが、色よい返事がもらえない。が、とうとう、そんなに言うなら今夜の2時に私の部屋へ来ておくれ。喜んだ一八が客に話したもんだから、客が一八にしこたま飲ませてからかう。しくじった一八、師匠の部屋をやり過ごそうと明かり取りから帯を垂らし、それにつかまってつるつると降りてくる。

八代目桂文楽

 

結局、師匠に見つかって話はおじゃんになるのだが、幇間の悲恋、悲哀と客のやりとりが何ともおかしくも気の毒で、この噺を得意にした八代目桂文楽の高座は、至芸とも言うべきであった。(落語作家 さとう裕)

 

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