「オノマトペ」をうまく入れて爆笑王になった初代桂春団治

落語の魅力の骨格は、ストーリーや登場人物のキャラクターなどだが、それらを根底で支えているのが、テンポやリズムだ。落語は話芸だからリズミカルなテンポは、客の耳に心地よい。

が、一定のテンポ、同じリズムがずっと続くと単調になる。そこで、様々な工夫がされる。突然テンポやリズムを変える。破調し、絶妙の間が入ると笑いが生まれる。

その技巧の一つが「オノマトペ」。日本語では、擬音語、擬態語と言われる。猫ニャアニャア、犬ワンワンから雷ガラガラ、心ウキウキまで、日本語には多種多様なオノマトペがあって、数の多さでは世界の言語の中でも突出しているらしい。

落語「延陽伯」では、今晩嫁さんがやってくると言われたやもめが、妄想たくましく、差し向かいで食事をする場面を思い描いて、自分は大きな茶碗で飯を食い、嫁さんは「京都の清水焼の朝顔形(あさがおなり)か何かの薄手の可愛ぃ茶碗でね、象牙の箸で銀の股引はいてるというよぉなね、ちょっと茶碗へ当たってもチンチロリンなんてね。

チンチロリン、ありがたいねぇ。おらもぉ何じゃねぇ、茶漬けでもガサガサガサッと大ぉきぃ食わないかん。嫁はんはというと、女やさかい漬物一切れ食ぅのんでも、小さなお口で前歯で様子して、ポリポリポリポリ、おらぁ男や大きくいかないかんねぇ、奥歯でバリバリバリバリ。嬶(かか)の茶碗がチンチロリンなんてね。俺が茶漬けをガ~サガサ、嬶が香香(こぉこ)をポォ~リポリ、俺が奥歯でバァ~リバリ、チンチロリンのガァ~サガサ、ポォ~リポリのバァ~リバリ、チンチロリンのガァ~サガサ、ポォ~リポリのバァ~リバリ……。

横から隣人が、「宗助は~ん。なんややもめがボリバリ言うてまっせ」と、ツッコミを入れると笑いが生まれる。

初代桂春団治

「へっつい盗人」では、友人の引っ越し祝いに道具屋にへっつい(かまど)を盗みに来た2人、道具屋の竹の囲いを開ける時に、勢いよく開けた方が音がしないと、「カラコロカラコロ」開けるが、よろけて、「ドンガラガッチャ、プップー!」「こけてドンガラガッチャは分かったけど、プップーて何や」「手ぇついたとこに三輪車があって、そのラッパ……」「ラッパやったらプーやろ。今プップーと二つ鳴ったで」「あんまりええ音やさかい、もういっぺん押した」。

こういうオノマトペの面白さに気づいて、それを上手に古典落語に取り入れ、爆笑王となったのが、初代桂春団治(1878~1934)だと言われている。劇や歌にもなった、後家殺しの春団治だ。

どんな人でも、それぞれに心地よいテンポやリズムを生まれながらに持っている。そのテンポやリズムと噺のそれが合致した時、人は気持ちよく噺の中へ入っていく。が、同じテンポやリズムが長々続くと眠くなる。サラリーマンが毎日毎日、同じように仕事を続けていると飽きが来る。結婚して、毎日同じ顔を見ていると嫌になる、とよく似ている。そこで、日々のテンポやリズムを変えて、ちょっと脇にそれてみたくなる。けど、あんまり冒険すると、ドンガラガッチャと人生を踏み外す。

人は踏み外すまで気が付かない。好事魔多し。気ぃ付けなあきまへんで。お互いに。(落語作家 さとう裕)

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