新作落語「夢屋」笑いはじけても…「やりにくい」

新作落語「夢屋」笑いはじけても…「やりにくい」

大看板の噺家が亡くなると、数多くのネタが滅ぶと言われる。噺家が若い頃から覚えたネタは数多い。高座にかける噺の何倍も覚えているという。で、その噺家の死と共にネタも滅ぶ。弟子に伝承され、後世に伝えられたネタは幸せなのだ。

 

戦後、多くの噺家が亡くなり、残された四天王と呼ばれた師匠方は、多くのネタを必死で守られた。中でも、桂米朝師(1925~2015)は滅びかけたネタを掘り起こしたり、自分で創作されたり、貴重な資料の保存にまで努められた。また、お互いにそれぞれの得意ネタを尊重した。六代目笑福亭松鶴師(1918~1986)なら「らくだ」、米朝師なら「地獄八景」と。他の噺家さんは演じるのを遠慮した。さらに、弟子も師匠の得意ネタを稽古してもらうのをはばかった。それなりにキャリアを積んで、もういいかなと思うまで師匠にネタの稽古を頼めなかったという。当然、直弟子でもないのに、師匠の得意ネタを稽古して下さいとは言えなかった。他の一門の噺家が、米朝師に「一文笛」の稽古をお願いしたら、「あれは、ワシが苦労して作り上げた噺やさかいなぁ……」と、やんわり断られたという話もある。

 

そんな中で、自分の話をするのはおこがましいのだが、こんな経験をした。

 

桂福団治師の新作「大人になった寿限無」を聞いて、新作落語に挑戦しようと大阪シナリオ学校に入った。すると、学校主催の新作発表会があると。演劇、映画、漫才に落語も募集していた。卒業生中心だが現役生もいいよと言われ、応募すると、運よく落語2席の中に拙作「夢屋」が選ばれた。演じてくれるのは桂枝雀師(1939~1999)だと聞いて、天にも昇る思いだった。が、どういう事情か、枝雀師は演者を降りられ、桂文紅師(1932~2005)に変更になった。それでも、生まれて初めて自分の台本が板に乗る。嬉しさ一杯で会場へ。噺が始まった。と、噺はあちこち切り刻まれ、原形が少ししかない無残な姿に。今になると、落語として分かりにくい部分を、切ったり貼ったり、整えてくれたのだと分かるが、初心者の私には理解できず、ひたすら無念で残念だった。

笑福亭伯鶴

 

数年後、笑福亭鶴瓶師とご縁があって、「春雷」という作品をラジオで演じていただいた。他の作品もあればといわれ、何作かお送りした中に、改作した「夢屋」も入れておいた。すぐに、鶴瓶師から連絡があって、「夢屋」をラジオで演じたいと。収録数日前、噺の一部をカットしたいと電話があった。そこは、私が一番気に入っている笑いのはじける部分だった。放送時間の関係で、あそこを削るしかないという。そのまま全部演じて放送局の人に適当に編集してもらうのはどうですかと聞いた。鶴瓶師は局に任せると、こちらの意図とは違う編集をするかもしれない、それは避けたい。聞けば、真摯な姿勢で落語に取り組んでおられるものだと感心したが、若い私は納得できず、あそこを削られるのはかないませんなあ、何とかなりませんかと返事した。結局、「夢屋」は演じられなかった。

 

数年後、「夢屋」は、笑福亭伯鶴さんの手で板に乗った。と、伯鶴さんから例の部分、やりにくいですと指摘された。そこはものすごく受けるのだが、それが前半にあるため、徐々に噺の勢いが落ちてしまうという。そうか、そこを見抜いた鶴瓶師はあの時、削ると言われたのかと、後に赤面した次第である。(落語作家 さとう裕)

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