死体の腹を裂いて手に入れた金で店を開く「黄金餅(こがねもち)」

戦さあるな 人喰い鮫の宴(うたげ)あるな(兜太)

2019年に生誕100年を迎えた故・金子兜太(1919~2018)の句である。第2次世界大戦で南洋の島へ送られ、「トラック島で水葬した戦死者の死体を漁りに来た鮫だ。獰猛残酷だが、ひたすらな生のひたすらな姿。その命の矛盾に立ち会わざるを得ない悲憤」(2019年9月22日付朝日新聞)。俳人高野ムツオの寄稿を読んで、落語「黄金餅」が心に浮かんだ。

「黄金餅」も凄惨な噺だ。

 

下谷に住む西念という坊主、頭陀袋を下げて江戸中をもらって歩き、せっせと金をため、きわめてケチに暮らしていたが、ある時風邪で寝込んだ。隣家の金山寺味噌を売る金兵衛が見舞いに行くと、あんころ餅が食べたいというので買ってやる。人が見ていると食べられないという。金兵衛は家に帰り、壁の穴から覗くと西念はふところから胴巻きを出し、二分金や一分銀を出し、餅にくるんで食べ、のどに詰まらせて死んでしまう。金兵衛は長屋の連中に知らせ、その日のうちに麻布絶口釜無村の木蓮寺に持ち込み、生臭坊主に出鱈目な経を上げさせ、天保銭6枚を払って焼き場の切手をもらい、寺の台所から鯵切りを持ち出し、焼き場へ。遺言だからと、腹のところは生焼けにしてくれと頼む。翌朝、鯵切りで西念の遺骸を突くと金が出て来た。金兵衛はこの金で目黒に餅屋を出し、大層繁昌したという。黄金餅の由来。

 

あらすじだけだと凄まじい噺だが、うまい噺家がやると、さほど抵抗なく聞ける。至芸のなせる技というのは簡単だが、「古今亭志ん生は一歩誤れば嫌味たっぷりになってしまうこの噺を、その飄逸な人柄と独自のくすぐりによって補い、十八番ものとした」と志ん生の工夫と苦労を、飯島友治はその解説で説明している(『古典落語』筑摩書房)。

 

立川談志(1935~2011)の「落語は人間の業の肯定」という言葉が、身に染む噺だ。死期を悟っても、貯めた金への執着が捨てきれない西念。死人が腹に収めた金をかすめ取る金兵衛。死肉を漁る鮫の如き所業ではある。さらさら肯定する気はないが、人間の業の深さ、強欲ぶり。しかし、そこまでしても生きていこうとする、底辺に生きる人々のある種のしたたかさを感じる。

「談志のはなし」

 

が、近年は一国の政治指導者と言われる連中の強欲、厚顔無恥が目に余る。そんな浅ましい姿を平気でさらす政治家を称賛し、支持する人たち。アメリカ大統領は不倫スキャンダルなんのその、金金金と白人至上主義の人種差別、民族差別。マスコミへの誹謗中傷。人権侵害、人権無視は中国やロシア、北朝鮮にとどまらない。負けじとわが国の首相のモリカケ問題。与党も政権幹部も巻き込んでの憲法無視、国会軽視、金持ち優遇政策。忖度しなくちゃと権力にすり寄るコバンザメたち。政治家のモラルのなさは極まり、役人までもが権力に媚びへつらい、それを許す民意。

 

そんな現実世界の醜悪を日々見せつけられると、西念や金兵衛の所業が可愛らしく見えてくる。地球環境問題で国連で演説した16歳のグレタ・トゥンベリさんや、香港の若者の怒りと行動がすがすがしい。こちらは、毎日毎晩切歯扼腕。おかげで奥歯はすり減り、総入れ歯。肩こり首凝り、目がかすむ。やたらと酒量が増えるのは誰のせい? ああ、それは自業自得か。(落語作家 さとう裕)

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