「完全燃焼なし遂げた」海洋冒険家・堀江謙一さん ヨットで太平洋横断成功
- 2022/6/18
- 社会

世界最高齢歳で、ヨットによる単独無寄港の太平洋横断に成功した海洋冒険家の堀江謙一さん(83)が6月5日、兵庫県西宮市のヨットハーバーに到着。揺れる船体からどこもつかまずに片足を高く上げ、約2カ月半ぶりにヨットを降りた。83歳とはとても思えない。(ジャーナリスト 粟野仁雄)

どこもつかまずに軽々と上陸した堀江さん=6月5日、兵庫県西宮市(撮影・粟野仁雄)
歓迎の花束を受け取ると「『あしたのジョー』が完全燃焼したように、この航海によって精神と肉体の完全燃焼を成し遂げた」と喜んだ。
海洋冒険家、堀江謙一さんが世界最高齢でヨットの単独無寄港太平洋横断に成功した。「サントリーマーメイドⅢ号」(全長約6メートル)で、米サンフランシスコ港からの約8500キロの航海だった。
「たくさんの薬をもらったけど、使ったのは目薬とバンドエイドだけでしたわ」と健康ぶりをアピール。「若輩ではありますが青春、真っただ中。大器晩成を目指して頑張ります」と締めると観客から大拍手だ。
記者会見では「前の航海から十数年、空白があったので忘れている面もあった。再学習できたので次回があればもっと良い航海ができる。明日からでもいけます」と意気軒高。
2005年に東回りの単独無寄港世界一周に成功した際、筆者はインタビューした。その時「冒険家というのはピアニストが芸術家と言われるような褒め言葉ですね。ヨットはスポーツ。僕はヨットマンでしかない。だから、自分から冒険家という言葉は使いません」と話していた。現在の考えを聞くと堀江氏は「冒険家と言われるのはうれしい。でも自分からは言わないのは今も変わりません」
疲れも見せず、翌朝から単独取材に応じてくれた。「日本に近づいてから黒潮の蛇行や悪天候で24時間寝られないこともありました。たいてい、日本が近づいてからもたつくんですわ」。積んだ食料はレトルトカレー、コーンフレーク、米、カロリーメイトなど。冷蔵庫はなくすべて常温。

詰めかけたファンにもみくちゃにされる堀江さん=6月5日、兵庫県西宮市(撮影・粟野仁雄)
1938年生まれ。「45年夏の玉音放送の時は箕面市の国民学校1年。1学期だけ戦前教育で、2学期から戦後の民主教育ですよ。食糧難で、朝食を食べてきた生徒は20%くらいだった」
1962年、「マーメイド号」で西宮港から米サンフランシスコまでの単独無寄港太平洋横断に世界で初めて成功し有名になる。著書『太平洋ひとりぼっち』はベストセラーとなり、石原裕次郎主演の映画にもなったが、実は密出国。日本では捜索願も出て「無謀で迷惑な冒険」などと批判された。だが、サンフランシスコ市長が称賛し、名誉市民にするとマスコミは手の平を返し、堀江さんは英雄になる。マーメイド号は現在、サンフランシスコの博物館に展示されている。
「出発前に見てきた。60年経った今も一番の特等席に飾ってくれていた」と喜ぶ。
1974年と2005年にはヨットで西回り、東回りの単独無寄港世界一周に成功。縦回り地球一周も達成、08年には波力だけ推進する小型船でハワイから西宮へも航海した。
「GPSは本当に便利でありがたい。六分儀の10分の1の値段ですよ」。とはいえ「海見ていて大体のことはわかります。西海岸との時差は7時間。日の出がだんだん早くなる。水平線に太陽の頭が出て完全に姿を見せるまで2分半。GPSなんかなくても、どんなに間違えてもアメリカ大陸を通り過ぎることはないと思ってましたわ」
よほど身体を鍛えているかと思ったが意外な答え。「ジムなんか通ったことない。走ったりもしません。散歩くらい。妻は料理にこだわりがあって僕にはさせないので家事もしない。2代目ココ(プードル犬)の世話が一番の仕事かな」