
参院選の勝敗ラインについて問われ、岸田首相は「与党で過半数の確保」と答えた。ひかえめすぎる数字である。「絶対的安定多数」などと言った数字を提起すると、それに届かなかった場合、政治責任を取らねばならないから低い数字を言っておくのが政治家の常套回答であるからで心の中は別である。
例えば、改憲をやりたいと思っているのならば、改憲発議ができる3分の2以上の獲得が勝敗ラインとなるだろうが、有権者はそういう本音が表に出ると反対の選択をすることが多い。安倍元首相は改憲を表に出しすぎた結果、失敗した。岸田首相はそうしたことを踏まえて低い数字を言っているのであって、真に受けてはいけない。
また、楽勝だという雰囲気が出ると負けるのが選挙であり、急速な円安、物価高、年金の減額、直前になっての身内のスキャンダル表面化、楽観は禁物とのことで低い数字を言っているのである。
今回は選挙区75、比例区50の125議席をめぐっての競い合いである。改憲発議ができる3分の2以上を確保しようとすると全体で166取らねばならない。現有議席は与党の自公で138、改憲の意を表明している維新が15、国民12、保守系無所属を加えると、現状でもすでに3分の2以上だから、最低限でも現有確保、これに少しでも上乗せできれば圧勝という目算が岸田首相と自民の本音だろう。

13人が立候補する兵庫選挙区=6月30日、兵庫県尼崎市
衆院選は昨年行ったばかりだから任期は3年以上残っていて、次の参院選は3年後までないから、これから3年間国政選挙はない。この選挙で3分の2以上獲得すれば、衆院はすでに4分の3が改憲賛成だから、これから3年間はやりたい放題、いわゆる「黄金の3年」になる。防衛費増額も、敵基地攻撃も、核共有も、改憲も思いのまま、衆院選と同様に徹底した反共攻撃を行い、ウクライナ情勢や北朝鮮、中国の動きについて危機をあおる作戦だろう。
今回の争点は、世界の政治的軍事的経済的枠組みが変化して新たな冷戦が始まっている中で、日本の政治・経済をどうするかである。日本の産業経済は衰退期に入っていることは明白であるが、岸田首相は新資本主義、経済安保、デジタル田園都市構想などいろいろ提起するが実効性はまったくない。研究開発は世界レベルから遅れる一方で、地方の衰退と人口減少に歯止めはかかっていない。「一億総中流時代」は完全に終わり、「一億総貧乏時代」に入っている。ごく一部の富裕層と圧倒的多数の貧困層とに二極分解し、いったん貧困層に落ちると「貧困蟻地獄」からはい出すことができない。
「ヤングケアラー」「福祉施設での殺人や暴力」が問題になっているように福祉と言えないレベルになっているが、岸田首相は根本に手を入れず、資産所得倍増プランなどと詐欺まがいなことを言っている。首相の話に乗ってみんなが貯蓄を投資に回して損すれば国が保証するのか。首相発のインチキ投資話に国民が引き込まれて大損するだけだ。デジタル庁、子ども家庭庁に次いで内閣感染危機管理庁、支持率や選挙を意識していろいろ打ち出すが格好だけだ。(フリーライター 山本健治)